ソーシャル・マジョリティ研究

ソーシャル・マジョリティ研究 の詳細

「普通とは何か」を考えているマイノリティの方々に本書を強くお薦めします。ソーシャル・マジョリティ研究は、「マジョリティがする研究」ではなく「マジョリティについての研究」です。筆者らは当事者研究の実践者でもあり、「ソーシャル・マジョリティ研究と当事者研究の両方をおこなうことで、新たな対処方法や支援方法を発見できる」と考えています。しかし、当事者研究についての知識がない人でも、本書の内容を理解することはできるはずです。本書の特徴を５点述べます。【特徴１】日常と研究の往復筆者らは2014年に「ソーシャル・マジョリティ研究会セミナー」を開催しました。そこでの講義を元に、本書は書かれました。当事者が日常生活で感じた素朴な疑問を、研究者である筆者らは拾い上げ、筆者らと当事者が対話し、共に問いを立てます。本のタイトルに「研究」とありますが、地に足のついた、日常生活と地続きの問題が書かれているので、研究者ではない方にも本書をお薦めします。論文のようなスタイルでなく、教科書のようなスタイルでもありませんが、しかし随所に論文や学術書の参考文献が挙げられているので、さらに深く学びたい方にも親切です。【特徴２】身体のしくみの言語化と可視化発達障害についての本は多数ありますが、ほとんどの本はコミュニケーションの問題ばかりを取り上げています。本書でもコミュニケーションの問題について書かれていますが、それに加え、身体のしくみについて詳細な記述があります。この点で他の本とは違います。たとえば、第2章「発声と発話のしくみってどうなっているの？」と第3章「人の会話を聞きとるしくみってどうなっているの？」では、発声制御学などの観点から、声帯のメカニズム、声の波長、聴覚フィードバック、「聴覚の中次機能」などの要素を解説しています。イラストも適度に使われています。【特徴３】コミュニケーションの理論化発達障害や精神疾患についての本の中には、筆者が自分の個人的体験を元にコミュニケーションのテクニックを書いている本もありますが、本書は違います。本書は先行研究を踏まえ、より普遍的な性質、現象、理論を示しています。第1章「人の気持ちはどこからくるの？」の48ページから引用します。「他者の気持ちを言語的・認知的に「理解する」ときは、他者と「対峙しあう」関係にあるのに対して、他者の気持ちを身体的・共鳴的に「感受する」ときというのは、他者と「並ぶ」関係、「なぞる」関係にある」この整理は重要です。第１章は感情社会学と感情の現象学の観点から、極めて重要なことが、非研究者向けの平易な文体で書かれています。【特徴４】社会学のアプローチ本書は社会学の本ではありませんが、しかし「マジョリティの人々に共通する暗黙のルールや性質を発見する」というアプローチは社会学的であり、「他者を理解すること」という切り口で、多くの示唆を与えてくれます。また、社会学の有名な教科書である『質的社会調査の方法他者の合理性の理解社会学』（岸政彦、石岡丈昇、丸山里美・有斐閣・2016年）は、調査研究において他者を理解することについて書かれており、一方『ソーシャル・マジョリティ研究』は、日常生活において他者を理解することが書かれています。その点が2冊の違いです。私はAmazonで『質的社会調査の方法他者の合理性の理解社会学』のカスタマーレビューを投稿したので、そちらもご参照ください。