資本主義の終焉――資本の17 の矛盾とグローバル経済の未来

資本主義の終焉――資本の17 の矛盾とグローバル経済の未来 の詳細

david harvey、これまでも名前はよく聞いていたのですが、手にとって読むことはありませんでした。聴講した大学院の授業で参考文献として取り上げられていたので（こんな作品を参考文献としてあげる大学院というのもまたそれなりの存在ですが）、とうとう手に取ることになりました。いくつか過去の作品のタイトルを眺めた後に最終的に読むことにしたのがこの作品でした。最新刊ということですので、これを読めばある程度著者の過去の思索の到達点という立場からの鳥瞰ができるのではという思いもありました。中身はというと、これも強烈な作品です。いつも思うのですが、マルクス主義というのは強烈な分析道具です。現象面の局地化された個別性と一過性の持つ芳醇さはここでは退けられます。世界のいかんともしがたい存在の問題性とそれへの歴史的な知恵という対応という視角は捨て去られ、全体の合理性と抽出された法則の体系の下で、強烈な鋭利さでanalyse awayと言ったらいいのでしょうか、世界が粉々に分析されつくされてしまいます。ここでは資本の矛盾が１７が、foundational, moving, dangerousの視点から整理し直されています。そしてconstructive unity（これは絶対的矛盾の自己合一か？？？）という資本の強靭さの下で、その解決不能な存在が読者の目に明らかにされていきます。どの章も強烈なメッセージを伝えるものです。またどの矛盾も資本の全体の力学の中で相互に関連しあっているわけですから、このような17への裁断は誤解を招くリスクもあります。つまるところは、どの矛盾が読み手としての読者に一番訴えるかは受けて次第です。私は、"endless compound growth" "the contradictory union of production and realisation"などの部分に圧倒されました。でも著者の特色と魅力はその分析の鋭さだけではなく、もはや分析の「詩人」といってもいいほどの強烈で鋭利な英文です。英文は明晰で論理的、かつ皮肉なトーンを強調する言葉の対比と文体です。著者の造語かどうかは不明ですが、conscious launderingやcharity industrial complexとは言いえて妙です。現代の資本の力学の分析にはそれに応じた文体が必要なのでしょう。これを読んでしまった読者に残されるのは強烈な危機感とおそらく無力感でしょうか。どの章もそして最後も政治的なpraxisへの著者のコメントで締めくくられるわけですが、この部分は一転してわかりにくい部分となります。著者のような鋭利な知性にとっても、世界の解釈は可能でも、矛盾に動かされる資本の世界に代わりうるalternativeの創出への道しるべと工程表の提示は限りなく困難な営為なのでしょう。それでも著者のような人々は変革への位置を捨てられません。著者は最後で述べているように、humanistなのです。人間による世界変革それも良い方向への変革の可能性、そしてその結果としての人間のremakeを信じている人種なのです。そしてマルクス主義も西欧に存在し脈絡として流れるこの水位の末端に位置する種族なのです。